空と構造|tekuta.com

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【書籍紹介】コンサルを超える 問題解決と価値創造の全技法

はじめに

コンサルタントの問題解決技法と考え方、さらには21世紀のビジネスが目指すべき価値創造について語られた本です。

マッキンゼー、ボスコン両社で経験を積み、現在は一橋大学大学院経営管理研究科特任教授であり、ファーストリテイリングや味の素の社外取締役をも務められている名和高司さんの著書です。

本書の中で言及される問題解決技法は多岐にわたりますが、この記事では私が特に重要と感じた4点について絞って紹介します。

基本的には太字さえ追っていけば必要な情報を得られるように構成しています。時間のある方は全文読んでいただけると、理解が深まると思います。

 

 

 

①仮説を立てて切り込め

まず前提として、コンサルが依頼者から仕事を受けた際に始めにすることは「真の問題は何かを探る」こと。依頼者が言う問題は真の問題ではないこともあるからです。

この問題分析の際に「仮説を立てて切り込め」ということですが、言い換えると、「真の問題が何かをあたりをつけて分析しろ」ということです。

なぜか。

「すべてを隈なく調査して問題を炙り出す」というやり方では、あまりにも時間がかかるだけでなく余計なものまで見えてしまい、かえって問題解決から遠のいてしまうということです。

本書の中ではボイル・ジ・オーシャンという言葉で説明されていますが、要は問題がどこにあるか分からないなら蒸発させて全て見えるようにしてしまえということです。しかし、そんなことは到底無理でしょう。

問題は、すべての要素の中から見つけるものではなく、はじめからこういうことじゃないかという仮説を持って見にいくものだ。つまり、「イシューからはじめる」ことが重要なのだ。

完璧主義で全てを拾って100点を狙うのではなく、本当に解決すべき問題をピンポイントで狙いにいくほうがスジが良い、ということでしょう。

②失敗を許容しながら高速に試行せよ

①で仮説を立てて切り込めという話がありました。真の問題に迫るには、仮説を立て、ファクト(事実)を見て、さらに仮説を練り直していく。この一連の繰り返しを高速で回していく必要があります。

シリコンバレーなどのスタートアップ界隈では、これをリーン・スタートアップといいますが、まったく同じことです。

最初から完璧なものをつくる のでは なく、まずMVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト = 最低限役に立つ商品)を市場に出す。そしてマーケットの反応を見ながら、つくり直していく

最初から正解にたどり着くのは難しい。じゃあどうするか。目星をつけて試行して、フィードバックする。これを高速で回すことに意味がある。

このとき、試したことが失敗するというのは往々にして発生します。しかし、言い換えると「そこに正解はなかった」ことが分かったとも言えます。

グーグルでも、企画が外れるとお祝いする文化があるようです。

そちらに行っても道はないことを見つけたことに対するお祝いだ。仮説検証がひとつすんだことをみなで祝うわけである。

このように失敗をよしとする文化では、ダメだったらダメと報告できる環境が整っているとも言えます。逆に、失敗をよしとしない文化だったらどうなるか。失敗だとわかっていながらずるずると続けてしまう、隠ぺいするということも発生しかねません。

トヨタでは、不具合を見つけた段階ですぐに工場のラインを停止させ、原因を追究するそうです。普通ならラインを止めるなんて言語道断。数秒の停止が数百万、数千万の損失につながるからです。しかしそれは短期的に見た損失の話で、長期的に見たら数億、数十億の損失を回避したとも言えます。

ラインを止めても、クビにならないどころか、ボスからありがとうと感謝される。(中略)そうすることで、現場は、失敗を隠さず、それを貴重な学習機会にしていく。(中略)学習するためには、失敗を認める勇気、いったんは行けると思ったものを壊す勇気が必要なのだ。

 

③トレードオンを目指せ

ずばり、本書で書かれている21世紀のビジネスにおける目指すべきポジションはトレードオンの領域です。説明します。

コンサルのお得意芸として、マトリクス解析が挙げられます。トレード”オフ”となる2軸を用意し、製品や会社の立ち位置をマッピングすることで市場の構造を分析できるため、よく使われる手法です。

例えば、価格と品質はトレードオフの関係と知られていますが、よくよく考えれば(いや普通に考えても)右上のマスが最も価値があることに気づきます。安くて品質が良ければ言うことありません。

画像1

上図のように、トレードオフと考えられている2軸でマッピングすることで、真に価値がある領域がわかってきます。それは、トレードオン(両立)の領域です。

どちらか一方をとるのではなく、どちらも両立したところに革新性がある。イノベーションはそうして生まれてきた、と本書では語られています。

また、実は日本では明治時代の渋沢栄一もトレードオンを実践してきました。それは、経済価値と社会価値の両立(経済を回し、それを独り占めにするのではなく社会に還元していく)です。

この、経済価値と社会価値の両立を目指す活動を、本書ではCSV(Creating Shared Valueと呼んでいます。詳細は掲載しませんので是非読んでみてください。

④分別の限界、これからはシステム思考だ

コンサル的な要素分解の分析方法は、混沌とした無秩序な状態を切り開くには有効な手段ですが、21世紀の時代に、企業として価値を出していくことを考えると要素分解だけでは限界が来ています。

本書ではこの要素分解に頼る問題解決手法を「要素還元的問題解決」と呼んでおり、全体最適が求められる問題に対しては限界と述べられています

全体を見ないで、ひとつのことだけを解決の糸口にしてしまうと、そこからほころびが生じて、すべてが崩壊してしまうこともある。これが、要素還元的問題解決の限界だ。

③で記載したように、トレードオフの2軸で分析することで現状のポジションを理解することができました。そして、両立を目指したトレードオンの領域が見えてきました。これは要素分解による功績です。

しかし、ことトレードオンの実現については考え方を変える必要があります

一見すると相反するものを両立しようとする試みを「アウフヘーベン」といいますが、言い換えると、2つに分かれていたものを統合し、新しい価値を出していくこと、といえます。

これまでの要素分解の流れとは違い、今度は要素を統合し、高いレベルのアウトプットを出していく全体最適的な考え方です。

このように、複数の要素から構成されたものにおいて、その関係性をそのままに考察し、適切な統合を図り、結果を出していく考え方をシステム思考といいます。

本来、複雑に絡み合っているのがシステムだ。その関係の複合性、多重性をあるがままに考察しようとするのが、「システム思考」である。

要素一つに注目するだけでなく、全体としてのアウトプットに着目し、全体で最適化をかけることが必要ということです。

まとめると、トレードオンのような2つの相反するものを実現するには、絡み合う複数の要素をそのままに理解し、どうしたら両立できるかを全体最適の目線で切り込んでいくべき、ということです。

おわりに

要素分解(分別をつける)ではなく、全体として最適化をかける(一つのものとして理解する)という考え方は仏教的な考え方に近いものを感じました。

現実は複雑に絡み合っているので、全てを分解して論理的に組み立て、思い通りの結果を出すのはとても難しいと思います。取り分け、相反するものを実現しようとするなら尚更です。全体を見ながら、泥臭くバランスをうまくとっていくしかないのかなと感じました。

この記事では紹介しきれませんでしたが、IQ・JQ・EQ、U理論などのAI時代にフォーカスしたコンサルの在り方の話も大変興味深かったです。

ご興味持たれた方はぜひ一読してみてください。